VT250Z
HONDA


レーサーレプリカ全盛の時代にVTならではの新風を巻き起こした丸目ノンカウルモデル。余分な部品など省いているぶん低価格であったためか、安っぽいイメージが先行したうえ発売時期が中途半端だった事もあり、のちに訪れるネイキッドブームの先駆的存在にはなりませでした。2型ベースはVT250Z、3型につながるダイヤモンドフレームを採用したモデルはVTZ250という区別がありました。

1980年代、バイク界はまさにレーサーブームが訪れていました。ミスターロスマンズホンダのフレディースペンサー、ラッキーストライクチーム監督でもあるケニーロバーツ、小柄で外足を浮かせたハングオンが独創的なランディーマモラなどをはじめとして、バイク本体のみならずヘルメットデザインにいたるまでレプリカものが流行していました。そういえば邦画でも当時の国内トップレーサー平忠彦をモデルにしたとされる「汚れた英雄」@草刈正雄主演というのが全国ロードショーされたくらいです。しかし二十歳をすぎ、さすがに峠レーサーを気取るのに無理があった私は今まで乗ったことのない丸目ノンカウルに興味を持つようになってきました。バイク漫画も数ありますが今で言えば癒し系の部類にはいる唯一ともいえるバイク漫画『750(ナナハン)ライダー』のような雰囲気でツーリングなどを楽しみたいと思っていたりもしたのです。もちろん中型免許しか持っていない自分には750ccは乗れません、しかも2台・3台目を所有するとなれば車検がある400ccすら経済的に無理がありました。そこでやはり250ccで探してみると、4ストマルチでたった一種類!スズキにGF250というモデルがあるだけでした。もちろんスズキもメインで販売しているのはRG−γ(ガンマ)であり、GF250はカタログの隅に載っているだけの状態だった為かあまり売れていないらしく、中古車なんてまったくみつかりませんでした。そんな時です、何と自分が好きなVTから丸目ノンカウル(VT250Z)が発売されたのです。衝撃が走りました。特に私はフルカウルのVTインテグラに乗っていたため、なおさら新鮮な気持ちでした。でも新車で買えるはずもなく、自宅の庭に2種類のVTを並べる夢は無期限におあずけ状態というのが実状でした。
就職して数年たったある日、同僚たちと何気なくバイクの話をしていたら、そばに居た一人が「ウチにもVTあるんですけどぉ...」と話しはじめました。バイクには乗らない彼の話を聞いてみれば、どうやら彼の兄貴が乗っていたVTが兄貴の結婚とともに実家に残されて、すっかり粗大ごみ扱いのまま放置されているとの事。しかも今度実家を改築するにあたりそのVTが邪魔になっているので、弟(彼)のツレで直して乗るような奴で欲しいという奴がいたら持ってってもらってくれと言われていたのでした。幸いタンクに錆はほとんど無いのだが、いかんせん野ざらしバイクなので実際エンジンの具合がわからない。しかもその動かない状態で持って帰るのも困難であるためなかなか引き取り手がつかず、ほとほと困りはてているようでした。とりあえずVTを持っている私は、部品取りにでも使えないかと思い「それって、どんな型?」と訊ねてみたら、返ってきた答えが『Z』だったのです。「どんなボロでもええわ、どうにかしてでも持って帰るけん自分に譲ってくれ!」と叫んだのは言うまでもありません。ポーター(運搬用小型トラック)を所有するバイクレーサーの友人に頼み、かくして消耗部品代と修理作業のみの負担で私は念願のVT250Zオーナーになったのです。それから数週間かけて、本格的なキャブのオーバーホールを残すものの一通り整備をしてピカピカになったそのバイクを動かしてみることになりました。セルモーターが固まっていたので坂道を利用して押しながらセルを回し続けていると、ようやくエンジンに火がつきました。一気に回転数をあげて機関内につまっていたゴミかすを排出し、そのままシートにまたがり国道に出て走りはじめました。心地よいVツインの振動を感じながら爽快な気分で走っていましたが、実はまだナンバーが付いていない状態だったのですぐに細道へ入り、そのまま近所を一周だけして試乗を終えました。しかし私がそのバイクに乗ったのは、その時が最初で最後だったのです。翌週末、うきうき気分でそのバイク置き場に行って唖然としました。バイクが倒れていたのです。最初はサイドスタンドで立てていたので突風か何かで倒れたのだろうと思っていましたが、はだけたバイクカバーは明らかに人為的に破かれ、あげくに小便までかけられていたのです。そこで私は思いました、おそらくバイク泥棒がこのバイクを盗もうとしたのだが、バイクカバーだけでなくワイヤーロックをしていたので失敗し、悔しまぎれに小便ぶっかけていったのだろう。しかしたとえ汚されようがバイクさえ無事ならば、不幸中の幸い・・・ホッとした矢先、重大な事態に気付いた時には涙があふれて止まらなくなっていました。悪党どもの犯行はそれだけでは終わっていなかったのです。タイヤはナイフか何かで切り刻まれ、インパネは壊され、鍵穴はマイナスドライバーをねじ込まれたようにグチャグチャ、あげくのはてにはミラーと丸目ヘッドライトがむしり盗まれていたのです。すぐに警察へ被害届けを出しましたが...盗難されてもほとんど犯人が見つからない現状は言わずもがな、結局そのまま泣き寝入りせざるを得ませんでした。

直すこともできず、かといって汚されボロボロにされたままの状態を見続けることにも我慢できず、それからすぐに友人に引取ってもらったVT250Z...今でも怒りと悲しみとせつなさで胸がいっぱいになる、苦い思い出の一台でした。